テキストにまとめようと、Macの前に座ること20分経過…。ちきしょう、何をどう書けば、あの瞬間の感情、感涙、享受したもの、発散したものを表せるっていうんだ!? ボノよぉ、あれは反則だってー。あんたら、こんなに凄いステージを2年も世界中でやっていたんかい。DVDをいくら見たって、ライブ音源を四六時中聴いたって、あの瞬間と同じ体験はできないですよ。だってさあ、同じ日本でU2をひたすら待ちわび、英語の歌詞を(間違っていようがなんだろうが)自分たちの言葉として昇華させてきた2万人のファンの存在は、DVDにも音源にも、いないんだもん。
そう、今回の来日公演は異常だった。まさか日本で、U2をあそこまで受け入れられる土壌が出来上がっていたなんて、まったく想像していなかった。仕事柄、日々U2の話題が出る状況にいるんだけど、U2に対する偏見と無知に閉口することもしばしば。まあ、仕方がないのかもしれない。日本っていうのは、この十数年のU2の主義主張からもっとも遠いところにいる国なんだろうし、音楽なんて携帯のストラップ、もしくは日常の笑い話のネタ程度になれば、それでいいって思っている連中が、あらゆる世代で大勢を占めているんだろうしさ。
でも、あの埼玉の夜は全然違った。 I and I in the sky / You make me feel like I can fly, So high / Elevation!!!!! が、あの場を一体にするってことを分かっている人たちが集まっていた。おまえら、普段どこにいるんだよ!って真剣に思う。
11月29日。
毎日生活をしていて、当然この日に日々近づいていくわけだけど、本当にこの日が訪れるって信じられなかった。実は9.11直後にやったスーパーボールのステージをテレビで観たときに「ああ、もう日本じゃ見れないかもな」なんて思っちゃったんですよ。
でもだー、この日がついに訪れましたよ。仕事を辞める覚悟でライブに行くことは結構あるけど、この日の気合いの入り方は、自分でも半端ないって感じだった。チケットがアリーナAブロック340番という、Ω型センターサークルの中を余裕で狙える好条件だったのもあるけど、「ああ、もう日本じゃ見れないかもな」っていう直感には、「これを日本でやられたら、いったいどうなっちゃうんだろう」という直感も含まれているわけで、それがあと数時間で目の前で繰り広げられるんだもん、そりゃ気合いも入るさ。
で、実際に会場に入ると、もうステージはホント目の前。電車のプラットホームの向かい側にステージがある感じ。Ω型の花道に至っては、ボノが手を伸ばしてくれれば余裕でタッチできるくらいの距離。そこで待つこと1時間半。この90分はほんとに長かった。The Arcade Fireの「Wake up」が鳴り響き、「Everyone... Everyone!!」の叫びの後で、あのステージのLCDがバーっと浮かび上がってだ、大きな歓声を掻き分けるように「City Of Blinding Lights」のイントロが鳴り響く…この瞬間で、いかに自分の感情を最高潮にまでもっていくか。一瞬でも邪念が入ったら自分の負け。そんなことを思いながら、「Wake up」をひたすら待っていた90分。そして、キタよ、キタコレ。その瞬間がさあああああ。「Wake up」のコーラス部分で、さすがに全員がってわけじゃなかったけど、分かっている人たちは大合唱!
ここからして分かるように、センターサークル内は、分かっている人たち率が高く、それが今回のU2のライブを大成功させた大きな要因だと思う。あまり言いたくないが、思い入れのない連中がコネとかにモノをいわせて、「すっげー前で見たんだよねえ」と言いたいだけでステージ周辺を陣取るような図式は、くそったれだ。今回のU2は、それがなかった(と思う)。大正解だ。
「City Of Blinding Lights」〜「Vertigo」〜「Elevation」と続く冒頭部分で、会場全体があり得ないくらいスイングしている。とくに「Elevation」の決めどころでの大合唱。ここでボノはビックリしたんだろうね。明らかに「おまえら、すげえな」って笑みを浮かべて「You are crazy」と言った。これは日本のファンに対する最大の賛辞だよ。POP MARTツアーの仇は討ったぜ。この後、あらゆる場面で「サイコー」「トウキョウはロックしてる」って口にするし、昨日のミュージックステーションに至っては、「生涯最高のライブを日本でやれた」って言ったけど、それはあの日の「Elevation」が決定づけた。これは間違いない。
その後は、もう、オールタイムベスト的な選曲。流れといい、密度といい、本当に最高だった。自分の中の最初のハイライトは、明らかに「Walk on」。「これからも歩き続けるために、ファッションも、価値観も、方法論も、今まで見てきたことも、作ってきたものも、挫折も憎悪も、ここにすべて捨てていきなよ」。この完膚無きまでの全肯定。U2が政治的だとか、それだから胡散臭いとか言っている連中は、一生この歌を聴かないで過ごすんだろうな。今回のセットリストで、直接的に政治的なメッセージを歌ったのは「Sunday Bloody Sunday」〜「Bullet The Blue Sky」だけで、「Miss Sarajevo」だって「Pride」だって、そこに歌われているのは政治なんかじゃない。
「Miss Sarajevo」の後で巨大なスクリーンに、日本語で世界人権宣言が流れた。これが国連憲章とかだったらオイオイって感じだけど、世界人権宣言だというところがU2なんですよ。U2にとって、政治というのはone of the issuesであって、成長すること、愛の断絶 ─ でも一緒にやり遂げなければならないというカルマ、快楽、父と子……などなど、そういう誰にでも起こるissue(課題)を歌っているわけ。ボノがなんであそこまで批難されながら慈善活動やるかだって、誰でも経験するissueを歌いたいのに、それらを経験する前に死んでしまう状況があるってところへのフラストレーションから来ているんだと思うんだよね。
一方、日本では、いじめが問題になっているけど、何を今更って思う。自殺という形で偏在化して初めて騒ぎ出したってもう遅いんだっつーの。いじめは僕が小学生の頃からあったし、その構図だって、いじめる奴らの資質だって全然変わっていない。ステージ上に世界人権宣言が流れたとき、そこに書かれていることがすべての答えなんじゃないかって思ったなあ。
そして個人的に次のハイライトは「Sometimes You Can't Make It On Your Own」。聴いたら泣くだろうなあ、でも涙腺が緩んで目の前が霞むくらいだろうと思ったいたのに、号泣しました。口元なんてヘの字に広がっちゃって、顔をくしゃくしゃにして声を出して号泣しました。「You and I... that's alright. We're the same soul」で一発目をやられ、「A house doesn't make a home. Don't leave me here alone」で号泣です。まあ、あまり書きませんがね、いろいろ思うところがあるんですよ。
この後は畳みかけるように来ましたね。「Bad」、最高! 「Where the streets have no name」、どんな試合でも絶対に勝利する必殺技だ。「One」、世界一の怨念ソングにして至高の愛を歌った曲。いつまでたっても、この曲の真意は測り知れない。「The Fly」、この中の「The universe exploded 'cause of one man's lie」は最高の一節だと思う。11/30の「With or Without You」、どうせやらんだろうと思いエンディングで「We'll shine like stars in the summer night」と一人口ずさんでいたら、あらま、やってくれた! これまた11/30のオーラスは「All I want is you」。「Yo~~~~~~~~~u, All I want is Yo~~~~~~~~~u」のシュプレヒコールの中、メンバーが一人ずつステージを後にしていく(「40」パターンね)。
終わった…。僕のU2が、終わった…。2008年の関西G8サミットに合わせて再来日するってボノは言っていますが、バンドで来るかどうかは不明。来てくれれば嬉しいけど、U2の場合は10年待つってことも想定しておかないといけない。本当、生涯でベスト3に入るライブでした。今までは'93年のZoo TV Tourがベスト3に入っていましたが、申し訳ないですけど退場してもらい、今回のVertigo Tourが入れさせてもらいます。え? 他の2つは何だって? 選ぶの難しいんだけど、'97年のOasis武道館とか、佐野さんの「See far miles Part 2」横浜アリーナとか、ポールマッカートニーのビートルズオンパレート@東京ドームとかがひしめき合ってますなあ。ま、どれもこちらの思い入れ度がMAXっていうライブなんですよね。
でも、言わせてもらいましょう。今回のVertigo Tourが、紛れもなくトップ1です。こりゃあ不動だろう。
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