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初出:2006年2月23日 12:53

こうして改めて、'80s作品を聴き込んでみると、やっぱり何だかんだ言っても『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』が好きだなあ。書き始めると長くなるけど、ナポレオンフィッシュがいちばん、詩と音楽が共に先鋭的であり、かつバラエティに富んでいる。サウンドはパっと聴く程度だとオーソドックスなブリティッシュロック風って感じだけど、聴き込むと相当複雑で斬新だということが分かる。詩についてはそれまで以上に散文的なんだけど、決して難解ってわけではない。「ブルーの見解」とか難しく感じるかもしれないが、オレと奴と君の「関係」に視点を合わせると、なるほどそりゃあ「ブルーの見解」だな、って思える。たしかに文学的ではあるが、それがビートに乗ることで味わえる楽しさがここにはある。

ちなみに「約束の橋」の「橋」というのは、世代や人種、宗教といったものを分断する川を渡るための虹の橋、というのが発売当初からの持論です。なおかつ、歌の主人公は橋を渡っていない。橋のたもとで分断する川を見つめている。ここがなんとも佐野さんじゃあないですか! 清志郎は同時期に「WATATTA」というまったく同じテーマ(持論)の曲を作っていて、そこでは「オレは川を渡った」と歌っています。なんとも二人のキャラクターの差がはっきり出ているじゃあないですか!

あと、自分の中でのダークホースなのが『Heart Beat』。もしかしたら『SOMEDAY』よりも好きかもしれない。これも自分しか分からない言い方かもしれないけど、ビートルズの『Sgt.Pepper』は名盤なんだけど、個人的にはその前の『Revolver』のほうが好きだ、というのに非常に近い感覚。さらに加えるなら、『Heart Beat』は『Revolver』よりさらに遡って『Rubber Soul』っぽい。『SOMEDAY』は『Revolver』も内包している感じがするしね。

ひさびさに「HEARTLAND」を聴いて、こりゃ凄いって思ったのが、そのサウンド。この当時のライブってことだと、北海道の旭川にある小さな会館で「Cafe Bohemia Meeting」を見ているが(実はこれにはクソくだらないエピソードがある。それはまたいずれ)、その時とバンドサウンドがまったく違う。ようするにちゃんとスタジアムバンドの音になっているのだ。発売当時もレコードを買って聴きまくっていたけど、その時は「おお、音が広がっているなあ。野球場だからなあ」というくらいの印象だった。でもその後、東京ドームでU2やらストーンズやらのライブを経験したことで、スタジアムバンドの音というのは、決して場所とかPAのおかげで鳴るものじゃないってことに気付いた。だから、ハートランドというバンドの懐の広さは当時の日本のバンドとしては別格だったんじゃないかな。その一方、HOBO KING BANDがスタジアムな音を出せるか? というと、あまりイメージが沸かないのも事実。いや、テクニック的には全然問題ないんだろうけど、スタジアムはHOBO KINGサウンドを楽しむ場ではないと思うわけ。

あとオススメは『Cafe Bohemia』かな。勝手な言い方をすると、これが一番“佐野元春 '80sサウンド”を具現化しているアルバムだと思う。もちろん初期三部作にそれを感じる人もいるかもしれないけど、これらは80年代に鳴らした'60s〜'70sのGood old sound。『VISITORS』は時代考証などを無視した突然変異。で、『Cafe Bohemia』が初めて、佐野さんが同時代サウンドにがっつりと向き合った作品なんだと思う。ただ、同時代といってもそこは佐野さん。フィリーソウルだったりネオアコースティックだったりと、日本じゃなくUKに視点が向いていたわけですね。「Young BloodsがShout to the top」というのも、結局はそういう理由。でもさあ、そんなに似てるかね? 明らかに似ているのは全体のリズムと16ビートを刻むハイハット、バッキングのピアノなんかが似ているわけで、それはソウルミュージックの伝統的なフォーマットやん。メロディやら歌詞をパクっているのとは明らかに違うわけですよ。「IndividualistsがInternationalists」っていうのは、たしかにワハハ…って気はしますけどね。まあ、無邪気だなあなんて思うわけです。

Googleさんは、この記事をこんな風に解釈しました
Googleさんは、この記事をこんな風に解釈しました

コメント

warmgun さん [2006年2月25日 02:10]

僕は「HeartBeat」しか買っていないのですけどね。
本当に久しぶりに「HeartBeat」を聞き直した最初の感想というのは、
ここまでブルース・スプリングスティーンしていたか!ということ。
ちょうど「Born to run」のリマスターを買った後なので、余計にそう感じる部分があるのかもしれないけれど、
見事にスプリングスティーンを代表とするアメリカの都市で鳴っているであろう音と同じものがそこに感じられましたね。
これは当時の日本のシーンを振り返るとやはり画期的なことだと思うのです。
ここまで洋楽ロック的な音や匂いをパッケージしたレコードは当時無かったのではないだろうか。
いやいや、カッコイイアルバムだよ。
で、次は「ナポレオンフィッシュ・・・」を買う予定なわけですよ。

KenG さん [2006年2月25日 02:23]

まだ買っていないのですよぉ『Born to run』。でもアメリカのiTunes Music Storeで『Hammersmith Odeon, London '75』は買いましてですね、Detroit Medleyなんかを聞きますとですね、パクリだなんだじゃなくて、同じ音を鳴らしているその凄さに天晴れなんですよ。1981年だもんね、凄いよね。

warmgun さん [2006年2月25日 15:02]

音に関して言うと、最近アナログ音源ものをいろいろ聞く機会があるのですけど、やはりそれなりの機材で大音量で聞くとたまらないものがあります。ハッキリ言ってかなりやられます。
60〜70年代はアナログでの録音、再生技術が極限まで高められた時代であるし、その時代の空気もあり、やはり素晴らしいです。特にロックは中音域の音圧がガツンとしており、いかにもロック然とした男らしい音になりますね。
しかし現在ではそれは時代に即さない部分も多々あるわけで、デジタル技術でいかにロック然とした音を録音、再生するか、というのが時代に即したものだと思います。基本的にロックで使っている楽器はギターしかり、ドラムしかり、60年代とほとんど変わらないわけですから、録音や再生の段階で時代性と普遍性を両立させられれば、優れたパッケージアルバムになる可能性が高いのではないでしょうかね。
最近ピンク・フロイド「狂気」SACDハイブリッド盤を買い、AACにエンコしてもあのアルバムの持つ音の素晴らしさに参ってしまいましてね。ああいうアルバムの前ではそれこそアナログだ、デジタルだという議論すらかすんでしまうような気がするわけでございます。

KenG さん [2006年2月27日 10:47]

時代時代の音の傾向って、意外とオーディオメーカーの傾向に左右されているような気もしますなあ。80年代なんて、これでもか! ってくらいのドンシャリで、中域なんてまるで無視…とまではいかなくても、それに近い傾向にありましたし、ウルトラスーパーダイナマイトバズスピーカーとかなんとか、そんなオーディオ製品ばかりだったし。そういう点でいくと、最近は割と素直な感じなのかな。あと90年代以降は、ロック音楽で使われる楽器の数もグっと減って、ドラム、ベース、ギターを基調として、アクセントでシーケンスやアナログシンセが使われるって感じだから、今の方が60〜70年代の音と近いのかも。

> 最近ピンク・フロイド「狂気」SACDハイブリッド盤を買い、
うん、そうですね。これとか「Sgt. Pepper」とか「Pet Sounds」とかは、なんか超越しちゃっている感じがします。あ、「Big Pink」とか「Blonde on Blonde」もそうかも。

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