(1)の続きです。
ではそもそも視聴率というのは何なのか?というと、広告出稿でビジネスが成り立っているテレビ放送における絶対的な指標に「なってしまった」のが良くないと言ってましたね。昔は、番組が良質なものであれば、その番組に賛同した企業が広告という形でもって支持し、そのお金で番組が制作されて視聴者を楽しませる。楽しんだ視聴者は番組のみならず、スポンサードした企業のファンにもなる。この循環こそがテレビのあるべき姿だけど、「良質な番組=たくさん観られている番組」という基準で考えたときに視聴率というのが重要な指標になり、でもそれが行きすぎると「視聴率の高い番組=儲かる番組」という営利企業の理論で番組作りが行われるもんだから、視聴者は数字稼ぎに利用されるだけで、あとは置いてけぼりを食ってしまうというわけ。汐留とかにやたらとデカいビルを立てる「企業としてのテレビ局」は、そのデカい図体を維持するために利益優先になるのも頷けると、皮肉っぽく言ってましたね。
こういうカラクリは、藤やんが北海道で「どうでしょう」を始める前に、HTB東京支社でCM料金の設定などの仕事をしていたときにすべて理解したんだとか。そんなもんだから「どうでしょう」を始める際に立てた目標が「視聴率を稼げる番組」。先に言っていた話と若干矛盾するように思えるけど、深夜枠で2桁%の数字を作るのにはテクニックはいらない、センスがあればいい、というのが持論。深夜にテレビを観ているのは面白いことに飢えているヤツで、そういうヤツらを相手に「お前は寝かさねーぞ」というスタンスで番組を作れば、20時台に20%を取ろうって番組とは、全然違うものができるはずであると。
二人の掛け合いも温まってきたみたいで、話はどうでしょう秘話っぽい方向に流れていく。藤やんがよく聞かれる質問に「ローカル番組を成功させた秘訣は?」というのがあるんだとか(まあ想像つく質問だわな)。「どうでしょう」を作る際に北海道ローカルだという意識をしたことはないし、たまたま鈴井&大泉という北海道タレントを起用しただけで、北海道の雄大な自然を見せる番組にするつもりもなかったと。
それよりも何よりも「仕事の環境作り」に腐心し、どうでしょうの歴史=環境整備の歴史と言っても過言じゃないんだとか。ADの役割すら知らなかった二人は、互いを「先生!」と呼び合いながらADっぽい仕事を押しつけあってたりしたそうで。また、嬉野先生がロケ〜編集のスケジュール立てをするわけだが、大抵出てくる言葉が「このままだと破綻します」。そこで、大相撲の時期になると数ヶ月に一度編成される「大相撲ダイジェスト」を利用して無理矢理2週間の休みを作り、その間にじっくりと自分たちの仕事などを見直し、スケジュールを立て直してロケを続けてきた。相撲人気が低迷の折「大相撲ダイジェスト」が放送終了すると「リターンズ」という形で無理矢理再放送してでも、休みだけは確保したんだそうで。これには藤やんも「視聴者だって置いてけぼりにしましたよ。だって何週間おきにいきなり何の脈略もなしに昔の放送が流れるんだから」と自嘲気味に言ってました。
しかししかし、そんな悠長なことを許さないという空気は、上司や経営サイドからではなく、現場から出てくるという。まあそりゃそうだろう。みんな必死になって日々仕事しているのに、なんでオマエらだけ休んどんじゃ!ってことになる。「リターンズ」については、他局への外販という道を切り開いたわけで、経営サイドとしては願ったりかなったりだけど、やはり現場ではいろいろ軋轢が生まれる。こういう風当たりを変えるのに「労働組合を使わない手はない。仕事環境を変えたいと思っているヤツで、組合を利用しないヤツはバカだ」と藤やんは力説してました。
藤やんが労働組合の委員長に立候補して買って出たのは有名な話ですが、最初にやったのは、昼休みに社員一人一人から会社に対する意見や不満を聞くことだったそうで。中には「お前、バカじゃないか?」って不満を言うヤツもいたけど、それでも「うん、うん、なるほど」と親身に聞くスタンスは崩すな、と労働組合内に徹底していたんだとか。こうして社員から何となくを支持を得つつ、自分たちの仕事環境を整備していったそうですよ。この話は何とも藤やんらしいし、非常に有意義。ネットなんかではよく「どうでしょうの成功は、最初にやったモン勝ち」「北海道ローカルだからできたこと」なんてdisったコメントを見ますが、いくら北海道の弱小ローカル局だからって、気ままに勝手にやれるわけじゃないだろうし、もしかしたらキー局なんかよりも全然保守的かもしれない。その中でああいうスタイルを確立したというのは、それなりに大変だったろうと思います。ただどうでしょうは「リターンズ」で番組外販に成功して、「クラシック」で販路を広げて、DVDがバカ売れするという、しっかり結果を出している仕事だからね。この日の彼らの言葉は説得力が強かったですよ。
話は前後しますが、最近はようやくどうでしょうさんもデジタル化が進んでいるようで、編集機がパソコンベースになったとか。個人的にはどのメーカーの編集システムなのかとても興味がありますが(やっぱAvidかなあ)、それ以上に興味深かったのが、DVDの編集行程の一部で新たに外部の人間に任せている部分が出てきているそうです。それは、DVD編集の前行程として、まずはテレビ放送と同じ編集を外部に依頼し、そのデータを元にDVD用の編集を行うんだとか。たぶん予想ですが、編集点をマウスでグイっと伸ばすと、カットされた場面が出てくるようになっていると思います(ボクがFinal Cutで編集する際はそうするようにしてます)。そうだとすると、編集作業もかなりのスピードアップが図れるんじゃないかな。だから年に3本、なんとかお願いしますよ。
はい、続きは(3)で。