以前このブログに『Jobsさん、現実湾曲フィールド炸裂! の「音楽の考察」』を書いてからまだ2ヶ月。EMIがついにDRMフリーのデジタル音源を提供すると発表。iTunesもそれを受けて5月より、従来の2倍のビットレートであるAAC 256KbpsでもってDRMフリーで販売すると発表。価格が1.29ドル/1曲ってことだけど、これはビットレートを上げたから高くなったってわけじゃなく、DRMフリーにすることでの保険として0.3ドルUPってことなんでしょうね。ただ、それはメーカー側の都合であり、リスナーの音楽体験にはさほど関係ないので、付加価値として2倍のビットレートに上げたんじゃないかな。iTunes Storeの楽曲は音質が悪いって声が前からあったので、アップル的にはうまい落とし所を見つけたなって印象です。
そもそもDRMフリーを提言したのは、欧州委員会からFairPlayを解放しろって圧力があり、それに対して逆ギレした…という構図だったけど、単なる逆ギレじゃなく現実のものにしてしまうのは、さすが現実湾曲フィールド。…で、振りかざした斧を降ろす場所を無くした欧州委員会、次の一手は
アップルと大手レコードメーカーは欧州諸国において、自国のストアから音楽を購入するよう制限しており、国によって価格が違う現状において価格が割高になる場合もある。こういった制限はいかん!
と、こう来たもんです。でもこれは悪いことじゃないですよ。欧州委員会がどっちの方向むいて活動しているのか知りませんが、DRMの件と今回の件に関しては、音楽リスナー本位の発想ですからね。委員会が圧力団体化するのはどうかと思いますけど、いろんな主義主張の国が統合された今の欧州においては、こういう機関が当然必要なのかも知れません。欧州はユーロってことで統一しやすいわけですが、iTunesはぜひとも全世界統一にしてほしいですよ。日本からも欧米のストアが利用できるようになるのが最大の理想。為替レートとか税金とか、国々の権利関係とか、いろいろとクリアにすべきところは多いですが、DRMフリーという重い錆びた足枷を外そうとしているくらいだから、理想の世界は来るような気がする。
一方、iTunesで新しく始まった「Complete My Album」って世界で唯一、日本のみサービスインしていないんですよ。これも凄くリスナー本位のサービスなので、すぐにでも始めてもらいたいんだけど、たぶんレコード会社が首を縦に振らなかったんでしょうね。こういう時に行儀の良い消費者として大人しくしているのって癪なんですが、さてどうしたものか。
理想の世界って何なんだろう。ひとつ想像できるのは、本当に共有すべき有形無形の価値があらゆる人へ広がっていくことだと思うわけです。その最たる事象を昨日知りました。米国の著名なグラフ誌「LIFE」の廃刊に伴う処置のひとつとして
『2007年3月26日、厳しい経営事情を背景に、4月20日号を最後に休刊することが発表された。今後はウェブ上にて、同誌の保有する写真約1000万点を閲覧できるようにする』
ライフ (雑誌) - Wikipedia より
とのこと。Wikipediaでは「閲覧」となっていますが、ロイターでは「free for personal use」となっています。つまりLIFE誌の1,000万点にも及ぶ写真が、個人ブログにも掲載できるってことで、これは素晴らしい。
このことを知ったのは知人からのメールだったのですが、そこには「ノーブレス・オブリージュ」という言葉が書かれていました。まあ、そういうことなのかもしれないけど、それが単に「高い身分に伴う義務」「影響力のある立場に伴う義務」という解釈なのだとしたら、あまり夢中になれません。LIFE誌は特にそうですが、休刊に次ぐ休刊など、まさに血を流しながら活動してきたわけで、今の地位を築くのに絶え間ない努力があったことは容易に想像できます。そして、自分たちの役割を終える際に、自分達の価値ある仕事を世に解放するということは、エスタブリッシュメントとは対極にある考えですよね。著作権を70年に! なんていう議論を重ねるよりも、ずっとずっと尊敬できる考え方ですよ。