初ライブとなるCOYOTEバンドは、多くの会場でチラ見しかできなかったけど、前半と後半ではその成長の様子が如実に分かるほど大きな違いがありました。初日の赤坂Blitzはさすがに演奏が粗い...というより固かった。でも2日目の横浜では固さは無くなり、Zepp仙台に至ってはバンドの安定感は相当増し、アンサンブルの中でフレーズを応酬するほどのしなやかさが出てきた。こういう成長の過程を楽しめるというのはバンドの最初期ならではです。しかも音楽的には相当練り込まれた「COYOTE」というアルバムで、こうした楽しみを得られるっていうのは、やはり貴重なツアーだったと思うよ。
COYOTEバンドのサウンド的な特徴というと、佐野さん含むバンド全員が基本的にリズム・バッキング指向のアンサンブル。リードギターよりベースのほうがメロディアスな時があったり、キーボードがパーカッシブなフレーズを弾いたりするので、全体はタイトにガッツンガッツンくるんですね。そういったところが「COYOTEバンドはサウンドが若い!」という言葉に表されるんじゃないかと。Hobo King Bandは強烈なスィング感とリズムの強弱、フレーズのセンスでもって多様なグルーブを生み出すバンドだけど、それは逆に円熟という言葉に表されやすい。で、この2バンドの違いって何だろうと考えてみると、やはり'70年代のロックをリアルタイムに経過した世代か、'90年代以降に後追いした世代かの違いなんだろうと思う。
さて、Zepp仙台だ。ここは1,000人以上のキャパをもつ大きめのライブホール。だけどハコ鳴りはかなりデッドで、わりと前のブロックで見ていたせいかバンドの生音を聞いているみたいだった。そういう場所だからこそ存分に楽しめたのが、佐野さんが弾くギブソン・サザンジャンボの音の良さ。いやあ、つくづくスゴイ良い音するギターだね、あれは。ストロークの時の音の粒立ちとか、倍音の気持ちよさとか、もうスゴイ。個人的な最初のハイライトが「ヒナギク月に照らされて」だったけど、ライブではレコード以上に重心の低いミドルシャッフルのグルーヴが気持ちいい。で、イントロからうねる波のようなグルーヴを作っているのが、佐野さんのサザンジャンボのストロークだったりするわけです。そしてこの曲の聞かせどころである後半のスキャット。これもうねるグルーヴの中でコヨーテが吠えてましたね。こうなってくると、まるでストーンズの「Gimme Shelter」ばりのダークネスが漂ってくる。うーーん、いつまでも聞いてたい。
「折れた翼」は、赤坂Blitzとかは普通のハードなロックバラッドという印象でしたが、仙台では原曲に忠実になってた印象。続く「呼吸」は基本は原曲忠実なんだけど、ライブで聞くとまた感じ方が違う。この曲も佐野さんのアコースティックギターが曲の骨格を形成している。「ラジオデイズ」(最後の"I wanna be with you tonight!"、あれは反則)、「Us」、「夜空の果てまで」「壊れた振り子」と、常にイントロは佐野さんのサザンジャンボが光るところが、Hobo King Bandアンサンブルとは大きく違うかと。いやあ、しかし「Us」はスゴイ。正直、他の曲はCOYOTEバンドでなくてもそれなりに成立すると思うんだけど、「Us」は他の面子じゃ無理だろ。あれはまさにCOYOTEバンドの真骨頂。「壊れた振り子」はBlitzで聞いたときはブルースロック色が強く、それはそれでかっこいいんだけど、あの曲をブルースロックにするのはどうかな?と思う面もあった。でもZepp仙台は、前半アコースティック的で後半は破天荒なギターソロがうねり出すという、気持ちいいくらいニールヤンギッシュでした。
「世界は誰のために」も個人的にはとてもハイライト。佐野さんが弾くイントロのリフ一発が曲の雰囲気はビシっと作り、バンドはそのギターに被さるようにBeatlifyされた演奏を聴かせてくれる。ラストの「Why Why Wh~~~~~y?」は会場みんなで大合唱...となると最高なんだけど、そこまではなかった。残念。
で、ここでついに「コヨーテ、海へ」ですよ。この曲での佐野さんのボーカルは素晴らしかった。もちろん、有り余るくらいの力が内包された名曲ですから、ライブでも説得力が落ちるわけがない。でもね、「目指せよ海へ」からのサビ部分は、ボーカルの調子が良かろうが悪かろうが切実なまでに声を張り上げないと、言葉の力に負けてしまう。しかしCOYOTEツアーでの佐野さんは、そのボーカルでもって完全に曲の世界を掌握していた。いやあ、この曲も大合唱したかった!次回以降のライブでもぜひ演奏してほしいです。
「黄金色の天使」で大団円となったCOYOTE本編。短いインターバルの中、観客席では「さーの、チャチャチャ」というコールが巻き起こりビックリ。これは仙台の伝統だそうで。アンコールは一気に80年代に戻ってパーティだ!というお馴染みのパーティモードへ。「僕は大人になった」への繋ぎとなる演奏を聴いていると、佐野元春サウンドの真骨頂というのは、やはりR&Bに根ざした縦とも横とも付かないノリのグルーヴ感だなとつくづく思う。
アンコールがまた素晴らしく、「ダウンタウン・ボーイ」なんてここ十数年のなかで一番爆音ブリットロック化してた。この曲のイントロはスライドギターじゃないほうが、やっぱりいいと思うんだよね。次の「Young Bloods」もブラスがない分、かなりゴリゴリしたスィンギンソウルロックでした。これもいい!
二回目のアンコールで演奏された「約束の橋」は、2年前にNHKの「SONGS」で披露された同曲の雰囲気そのまま。そして大ラスは「アンジェリーナ」。これも佐野さんがストラトで弾く、ロックをロールさせるようなイントロに煽られるようにバンドも飛ばす飛ばす。久々にパンキッシュな「アンジェリーナ」を聞いたって印象。最後の最後であんなに爆発しちゃうと、そりゃあ「まだやれー!」というムードになりますね。でもここで終了。全体として2時間弱という、丁度よい尺でした。
しかし、7月の10公演で終わらしてしまうのは、ちょっともったいない。あと10公演やりましょうよ。アンコールには「Sweet 16」とか「十代の潜水生活」とか90年代に書いたオールドスクールなロックナンバーをCOYOTEバンドで聞いてみたいです。
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