まず“新譜”って煽りはどうかね? 10年前に「Free as a bird」が世に出たとき、ビートルズの新曲って触れ込みだったけど、これはまあ許した。しばらくは聴くたびに涙してたもんね。でも今回のは、そういう感動はない。どう贔屓目に聞いても単なるリミックスだもん。そもそもこのアルバムは、ラスベガスで公演されるシルク・ド・ソレイユのショー「LOVE」用に作られた企画モノなわけで、それを前提に聞けば、これから書くことすべて納得できるのに、「新譜!」とか言っちゃっちゃなあ。
ビートルズのマスターを掘り返して全体をコラージュするというアイデアは、全然OK。とても楽しめました。「Drive My Car」のギターソロを「Tax Man」のそれに差し替えたのだけは許せなかったけど(笑)。でも、コラージュについてもショーのサントラであるという前提に立てばの話で、それ以外にやる必然性があるのか? というと、何もないと思う。
中でも興味深いコラージュは、やっぱり「Strawberry Fields Forever」。アンソロジーに収録されていたジョンのデモテイクから始まり、それがオリジナルのStrawberry Fieldsへと進化していく過程がコラージュされているのはお見事。このあたりは、ジョージ・マーティンの息子であるジャイルズ・マーティンのアイデアなのかな。いやあ、良い仕事しましたなあ。デモテイクを含めてすべてのビートルズ音源にアクセスできるんだから、ジャイルズさんとしても本望だったろうね。うらやましい。
「Gnik Nus」という見慣れないタイトルの曲が入っていた。なんだこれはと思って聞いてみたら、あーなるほど。逆回転させてもメロディとして成立しているのがスゴイ。思わず『Abby Road』のB面を全部逆回転させてみたくなったよ(「Because」の逆回転はビートルズファンなら誰もが一度はやると思うけど)。
あと、今回よく言われているのがサウンド面。特別盤には、24ビット96khzの5.1chサラウンドサウンドがDVDオーディオに収録されているってことで、ようやくビートルズを現代的なファインオーディオで聴ける! なんてゾクゾクしちゃうわけですが、今回聴いてみて……いや、すごいクリアなんですよ。ストリングスとか微妙なタッチとかボーイングまで聞き取れるし、全体の音像もすごくワイド。これもショーのサントラと考えると大正解なんだけど、なんだけどさあ、ビートルズサウンドって、そうじゃねーだろ!って気持ちが大きくなるわけです。あの、これでもかってくらいコンプでグシャっと潰れ、狭い音像の中にレッドピークぎりぎりでいろんな音がひしめき合ってて、それが抜群に構成されているのがビートルズだろって思うわけです。ああ、やはりオリジナル・リマスターがほしい。リンゴのドラムがズドンズドンくるビートルズが聴きたいわけなんですよ。今回の「LOVE」では、かろうじて「Revolution」がそれに近かったかなあ。
2000年に出た『1』の時も感じたことですが、今回の『LOVE』で高校生とか中学生が「ビートルズっていいよなあ」と道端で喋りながら歩いているなんて風景を見ることになるんでしょう。それはすごく良いことです。じゃあ彼らにオリジナルアルバムを聴かせられるか? 彼らに『Sgt. Pepper』のCDを聴かせて鼻で笑われたらどうするよ!? 「オジサン、こっちのほうが音いいよ」って『Pet Sounds 40th Anniversary Deluxe』を差し出されたら、もう返す言葉がありません。
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