自社アプリケーション&サービスのビジネスモデルを考える上の「ジレンマ」とその克服方法
「マーケットイン」か? 「プロダクトアウト」か?
この2つの単語は、提供するもののアイデアを考えるときによく言われる。色んな意味を含むが、簡単に定義すると以下のようなことなんだと思う。
マーケットイン:
- 顧客ニーズがすでに顕在化されていて、それを解決する製品を具現化する
- 競合製品が多数存在しつつ、既存製品にユーザーが満足していない/無理を強いられている場合に有効
プロダクトアウト:
- 潜在ニーズを先回りにして製品に具現化する
- ニーズやウォンツ、マーケットの「空白地帯」を発見した場合に有効
大量消費が一段落した今の時代は、プロダクトアウトの方がなんかカッコいいし、当たればリターンもデカイ…と世間は言うだろう。しかしプロダクトアウトを選択した場合、必ず以下の課題に直面する。
- 潜在ニーズをどうやって顕在化させ、お金を出させるか?
- 顕在化しそうなマーケットはどこか?
- そのマーケットにどうアダプトすべきか?
プロダクトアウト型の製品を成功させるためには、大きな資金と時間、そして「勢い」を生み出す必要がある。その課題はあまりに大きいし、ここを無視したり後回しにして突っ走ると大抵失敗する。
余談:そういえば最近「レシートを送信してくれたらお金渡すよ」というアプリが登場し、開発したのが高校生ってことも相まって、凄い「勢い」が付いた。無名でもプロダクトアウトで勢いを持たせることはできる。そういえばZOZOスーツも「勢い」で突破しようとした事例に見える。でも、製品やサービスを作る上で当たり前にある過程としての Proof of concept(概念実証)が確定するまでは、外野の過剰な期待は禁物だと改めて思う事例でした。
「プロダクト」か? 「プラットフォーム」か?
これは、アプリケーション・サービスにおいて最初に考えなければならない立ち位置の話。これも簡単に定義すると以下のようなことなんだと思う。
プロダクト = 利用者にとっての特定要件を満たす「ツール」
プラットフォーム = 利用者が自分のためのツールを「構築できる環境」
エンドユーザー向けプロダクト・ツールではスケールメリットも小さく、マネタイズの方法も限られる。もし投資家からの出資を目論むのであれば「最初からプラットフォームを目指します!」と言った方が、ウケもいいんだろう。
しかし、プロダクトは一足飛びにプラットフォームにはなれないことをきちんと把握しておかないといけない。今、隆盛を極めている色んなプラットフォームを普段から使っていると「最初からこれを作ればいいんじゃない?」と短絡的に考える人もいるけど、それらのプラットフォームだって生まれたての頃は今とは形の違う「プロダクト」であり、様々な変遷を経て今の形になっていることを忘れてはいけない。
そんな理由から、他のプロダクト/サービスの考察をし、ポジショニングマップにまとめてみた。
縦軸は「マーケットイン」と「プロダクトアウト」。横軸は「プロダクト」と「プラットフォーム」。主要なプラットフォームが、ローンチ時と現在でどういう変遷を辿ったかを自分で分析したものである(異論・反論・誤認、受け付けます)。
ローンチ時:
- テックギークが食いつく斬新なサービスとしてデビュー
- ブログ全盛の時代において、「今何している?」という短いテーマを1日に何度も投稿するサービス
- APIを公開することで様々なツールが開発され、ローンチ時からプラットフォーム色が強かった
- 当初はネットワーク/サーバーリソースを大量に消費し、マネタイズに苦慮。
- 時事的な事柄を瞬時に拡散させる力が強く、スマートフォンとの相性の高さと相まって広く普及。
現在:
- 広告モデルに舵を切ったことをきっかけに、迷走しつつもプラットフォーム路線から自社サイト/Appへの囲い込みへシフト中
LINE
ローンチ時:
- 3.11をきっかけに「災害時に個人間が連絡を取れるツールが必要」という発想で開発
- 当初は1対1間のインターネット電話ツールとしてローンチ
- グループチャットやスタンプなどを用意して、SNSに馴染めない人たちを中心に広がっていく
現在:
- 「iモードがやってきたことをスマートフォンで実現する」という路線で巨大プラットフォーム化
ローンチ時:
- 乱立するスマートフォン用カメラAppの一つとして登場
- 正方形のみ、面白いエフェクトが多数搭載というインスタントカメラ/トイカメラの要素を盛り込み、大きな評価を得る
現在:
- TwitterやFacebookと比較すると、ユーザーの囲い込み度合いが高く、若干クローズドなプラットフォームというバランス
参考までに、Macintoshは「マウス+GUI」「ビットマップ・ディスプレイ」「プロダクトデザイン」という、IBM-PC台頭の時代において完全にプロダクトアウトに振り切った製品。それゆえに、マーケットそのものを自らか作らなければならず(例:MSと共同でExcelを開発。Adobe+Aldusとデスクトップ・パブリッシングを開発)、マーケットインの権化とも言えるWindowsが登場した後は、ニッチ市場のままで推移した。
近年におけるプロダクトアウトの権化と言われているiPhone(iOS)は、そもそも「電話」「インターネットツール」「iPod」という3つの既存マーケットを革新する目的で開発されたという面では、マーケットインの発想も強く持っていて、ジョブズ率いるAppleがiPodの成功を経て、とてもバランス感のある製品開発を行うようになったと感心してしまう。
では、自分たちの「提供するもの」はどうすりゃいいの?
自分が開発しているTopo Cardは、全てのコンテンツに位置情報を持たせることでコンテンツと場所を繋げる、「プロダクトアウト」型の位置情報「ツール」になる。
そしてユーザーにとっての価値は、このようなものになる。
- コンテンツから場所を探せる(SNS共有時に有効)
- 場所からコンテンツを探せる(マップの代替として)
- 誰もがコンテンツを発信・受信できる(多種多様な地域コンテンツの交換)
- コンテンツに沿って行動し、行動でコンテンツを発見できる
しかし上にも書いたように、大きな資金も時間もないため、プロダクトアウトで成功を収めるスキームは使えず、もがいている状態が続いている。また、現時点ではマーケットが顕在化する様子が薄く、マーケットニーズを製品に取り込みづらい状況である(もしもマーケットが顕在化する要因があるとしたら、コネクテッドカーの実現と普及ではないか?)。
そこで重要視するのが、上に書いたMacintoshの例のように、パートナーと一緒になってマーケットそのものを作るべきではないか?という発想に今は至っている。
パートナーを検討するにあたり、他の主要なサービスに対してTopo Cardはどういう特徴を表明すべきなのか?という整理をしてみた。テーマは「距離」。スマートフォン利用者にとって、距離とは実は2つあると考えている。
物理距離:
- ユーザーが居る場所
- ユーザーはスマートフォンを持ったまま移動するため、PCとは違い、物理距離が近いコンテンツは常に大量に生まれる
意識距離:
- ユーザーが居る場所に関係なく、その時にユーザーが接している情報に対する意識的な距離。渋谷に居る子が週末に行くディズニーシーの計画をLINEでやりとりしているなら、渋谷は遠く、舞浜が近い
- スクリーン上に様々な情報が押し寄せてくるため、スマートフォンにおいては物理距離よりも関係性が強い
Googleに代表される検索サービスは、物理距離はあまり重要ではなく「知りたい」という意識距離が近いものを検索する傾向にある。
マップは「今いる場所のそばにあるラーメン店を探す」という目的が明確なので、物理距離も意識距離も近い時に使われる傾向にある。
LINEのようなコミュニケーションツールは、意識距離がとても近くなる。また、自分が属するコミュニティ内でのやりとりが多いため、物理距離も比較的近いかもしれない。
SNSは網羅的だが、タイムラインやフィードには物理距離は反映されないので、ユーザーは意識距離が近い他のユーザーや発言を自主的に集める傾向にある。
濱口秀司氏が言う Break the bias
ここで少し話題を変えよう。先日、機会があって「ほぼ日」の株主総会に行ってきた。自分は株主ではないが、総会の前に濱口秀司氏(ビジネスデザイナー)のプレゼンテーションがあったので、それを観るために潜り込んだ。
2018/11/25 株主じゃないけど「第2回 ほぼ日の株主ミーティング」に来ちゃいました。 https://topo.st/card/8d24327ef7231df715ef5c7f36aaf904-0
とても面白い内容だった。掻い摘んで書き出すと、以下のようなことを話していた。
- 「常識バイアスのベクトルの反対を行く」ことがイノベーションの源泉
- イノベーションで大事なのは「見たことない」「実現可能」「アイデアに賛成と反対が半分いて議論が生まれる」
- アイデアがたっくさん出た時は、アイデアは無視してその源泉を分析する
- 思考パターンを絵に描いて構造化し、壊す
- 「顧客の価値」の変遷。昔は「機能」。ちょっと前は「デザインと情緒」。今は「ストーリー(意味性)」
- でも全部の足し算が重要。価値はどんどん定性的になり、学習できない
…とまあ、大切なことをたくさん話してくれた場だった。もっと詳しく知りたい方は、このまとめサイトが便利。
バイアスを壊せ。ビジネスデザイナー濱口秀司の講義まとめ https://matome.naver.jp/odai/2146076914231352601
こうした刺激に感化されつつ、さっきのチャートを見ると、すっぽり空いているところが常識バイアスのエアポケットなのではないか?と思えてきた。Topo Cardは「物理距離さえ近ければ、意識距離は遠いものでも近くに寄せる」ことができるツールになれば良いのではないか?
ここで重要なのが、クーポンや安売りではなく「人の知的好奇心」(もしくは感受性)という定量化できないファクターに訴えることだろう。それができるパートナーって誰だろう?
- 物理距離の近い情報を収集・作成する能力がある
- 物理距離が近いけど、ユーザーが意識していないものを魅力的に見せるテクニック
- 「知的好奇心」「感受性」に訴えるコンテンツ作りのノウハウ
…はい。このブログで示すことは、ここまで。このアクションが形になった暁には、またテキストにまとめようと思います。