一年使ったVision Proの現在地点

昨年の今日、手元にApple Vision Proがやってきた。こんなに高価なものを話題性だけで手を出してはすぐに売る人も一定数居たようだけど、自分はほぼ毎日使っている。それどころかVision Proを前提としたMac環境を揃えるなど、抜け出せない感じにすらなっている。

1年間の使用経験から、Vision Proの主な用途は、Mac用の可変式8Kワイドディスプレイ、自宅で映画館のような映像体験、そして時折、没入型コンテンツを楽しむこと。とにかくMac仮想ディスプレイという機能は強烈で、これだけで高い金を払った元は十分に取れたと声高に断言できる。

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しかし言い換えるなら、期待していたほどVision Pro自体が新しい生産性ツールとして活用されているとは言えない。visionOS専用のアプリケーションについても、現状では魅力的なものが少ないと感じている。結局のところ、閉じた空間において日常的に使用したいと思える利便性の高いアプリケーションを実現するには、アプリケーションの仕組みよりも、コンテンツの内容こそが重要である。この点は、1年間の使用経験においても覆すことは難しく、私自身の開発したアプリケーションも、そこの課題を解けないでいる。

AppleはApple TVを中心に莫大な予算をかけてコンテンツを揃えてきた。しかし、そこまでしないとVision Proの革新性を伝えられないのか、と疑問に思うこともある。そこには、かつてのiPadと同じ道を歩んでいるかのような危惧も感じる。iPadはローンチ当時、メディア消費デバイスとしての性格が強かったため、画面が大きいiPhoneぐらいの価値しか出せていなかった。iPadが独自の生産性を発揮し始めたのは、Apple Pencilが登場し、手で書く(手で描く)ことをデジタル世界と融合したことで、iPhoneでもMacでもない独自の進化を遂げたからだ(ちなみにApple Pencilをスタイラスだと思ったら大間違い)。

Vision Proのジェスチャー操作は、ゴーグルというフォームファクターにおいて大きな進化だが、細かい生産的な作業をしようとすると限界を感じる。例えば、キーボード入力。QWERTYが一本指打法でしか認識しないのは、いずれ改善されることを期待しつつ、iPhone由来のフリックかな入力をそのままVision Proに持ってきたのは苦しい。やはり、キーボード的な方向性よりも、音声認識が自然に使えるようになるべきなんだろう。

Visions Proがもたらすこれからのビジョンを考えると、閉じた空間でも視覚的に外と繋がり、偶発的なコンテンツが無限に連なり、狭くて小さなディスプレイを飛び越えて目の前に広がる。そしてジェスチャーを超える操作で生産性を向上させる。そんな状況になる日を模索しながら、明日もVision Proを装着しよう。その鍵はやっぱりApple Inteligenceで、ツールパレットや個別Appなどではなく、もっとOSと密結合することだと思うよ。