2013/2/23、東京国際フォーラム ホールAでの佐野元春&THE COYOTE BANDのツアーファイナル。終演後すぐにオフィシャル・ステートメントとしてこのテキストをまとめたので、それはそれで見てもらうとして、そこには書かなかった個人の感想をまとめますと......。
ロック・コンサートには様々なスタイルがあって、光と映像のロック・ショーもあれば、ノスタルジーを喚起するもの、ひたすら演奏力で押してくるもの、オーディエンスとの一体感がすべてというものと、さまざま。そんな中で、今回の国際フォーラムは、演出じゃなく演奏でドラマチックに展開するロック・コンサートとして、完璧だったと思う。自分はPA横に終止座って一部始終を見ていたんだけど、終わったあと、空いた口が塞がらないというか、あっけにとられてしまった。前回見た神奈川県民ホールから2ヶ月。この間にいったい何があったのか!?
まず、佐野さんの調子が素晴らしく良かった。国際フォーラムという会場の音の良さやPAの巧みさもあってか、歌う言葉が隅々までよく聞き取れた。「ポーラスタア」のようにかなり複雑な節回しで、ともすると歌詞がリズムに埋もれてしまうような曲でも、脳内補完することなくダイレクトに歌詞が飛び込んでくる。これは相当調子が良かったのだと思う。バンドの演奏もとても表現力が高かった。「虹をつかむ人」の出だし、小松さんがマレットで「ドドーン」とティンパニー風の音を出した時、正直、フィルスペクターなサウンドをライブで初めて聞いた気がしたくらい。「ハートビート」の新たなアレンジなどは、この数年間ちょっと馴染み過ぎて、冗長になっていた感覚を奇麗に消し去ってくれた。
COYOTE BANDがブリティッシュだなぁと思ったのは、良いメロディを持った曲に対して、そのメロディを引き立てるアンサンブルをバンドが一丸なって演奏すること。これは完全にブリティッシュ・ロックバンドのマナー。例えば「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」とか「夜空の果てまで」とか。かつてのハートランドも近いところがあったけど、もう少しオペラ的な展開が強かった気がする。COYOTE BANDがツインギターになったことで、片方(主に藤田さん)が比較的高音域のカッティングやアルペジオをループっぽく弾いているなか、もう片方(主に深沼さん)は低音域でノイズを唸らす...といった、とても今っぽいギターバンドのスタイルで、そういうのが好きな自分としてはもう完璧。そして佐野元春サウンドの伝統を継承しているのが、ベースの高桑さんと鍵盤の渡辺シュンちゃん。あの鍵盤のフレーズは、佐野元春のアイデンティティと言っていいし、ベースがボーカルと一緒に黒っぽくグルーヴするところなんかも、やっぱり昔からの伝統だなぁと思いました。
中盤、「Complication Shakedown」「99ブルース」は何だか淡々と進行してしまった観があり、自分の中ではちょっとトーンダウン。ソロ回しなんかもあって盛り上がるところなんだけど。たぶんホーボーキングバンドだと原曲から逸脱したフリージャム状態に突入し、その中でのソロ回しになるのに対して、COYOTE BANDはやはり曲を一丸となって演奏するバンドなのだな、とここでも思う。丁度最近、Atoms for Peaceの「AMOK」を聞いて、エレクトリカを強引に人間が演奏するとアフリカン・ビートに行き着くことを発見したので、ぜひCOYOTE BANDには、アフリカン・ビートやファンク・ビートを現代的に解釈するとエレクトリカになるってことを実験してもらい、「コンプリ」や「99」に新しい解釈をもたらしてくれたら最高。
それでも今回COYOTE BANDは、大きな功績を残したんだろうな、と思ったのが、「サムデイ」「約束の橋」といったファンにとっても歴史にとっても不可侵領域ともいえるオリジナル・アレンジを、歪んだギターの壁と怒濤のバスドラ連打でもって「犯した」のは、特筆すべきこと。これをやれたんだもん、どんどん新しいことをやっていってもらいたいです。