6月10日のZEPP Diver City Tokyoで、コヨーテバンドがついに大化けした。昨年末、恵比寿ガーデンホールのステージで、新しい可能性を見せ、2012初夏ツアーの初日、横浜BLITZではいよいよ脱皮か、と予感はあったものの、そこからわずか一週間でこの変貌ぶりは正直凄い。
これまでのコヨーテバンドの評価といえば「ラウド」「ハードエッジ」「若いサウンド」といったところだったけど、バンドがいつまでもそんな評価のままでいられるわけじゃないし、『コヨーテ』というアルバム自体がそういう評価とまったく違う音を鳴らしたわけだから、このバンドの本質はそこではないはず。
じゃあ何が本質なんだろう? ホーボーキングバンドと比較してみると、HKBは各々のプレーヤーのセンスと力量と豊富な音楽経験が、縦糸と横糸のように折り重なり、音が波を描いて広がり、まさに縦横無尽のグルーヴを生み出す、そんなバンドだと思う。この春にあったSmoke and Blueでは、全編に渡って米国南部的な響きが鳴っていた。まさにHKBだからこそ奏でられるサウンドだった。
そうしたHKBと違う音をどう鳴らすのか? というのはコヨーテバンドが誕生した時からの課題だったと思う。その答えかどうかは分からないけど、今まではどうしてもラウドでハードエッジな音に行きがちだった。勢いがあるのはロック的には正しいけど、それだけでは音楽としてはつまらない。
バンドは昨年末からツインギター体制になった。これがコヨーテバンドの個性をはっきりさせた。音に厚みを持たすこともできれば、片方がひたすらノイズを鳴らし片方が反復フレーズでトランス状態に没入することもできる。藤田さんがとても現代的でフリーキーなギターを鳴らすことで、深沼さんが本来持っているメロディアスで骨組みのしっかりしたギターサウンドがより一層響き渡る。今回、佐野さんはハンドマイクに徹することが多いものの、実はリズムの権化である佐野元春ギターが加わると、かなり畳み掛けるようなウォール・オブ・ギターサウンドとなる。ZEPPの前日にYouTubeで観た、ボナルーのRadioheadがまさにそうであったように。
そして、わりとジャストに近いタイトなリズムなんだけど、実はかなり黒くてソウルフルな小松さん&高桑さんのリズム隊と、実はいちばんロック・フレーバーの濃い、シュンちゃんキーボードがアンサンブルを奏でることで、一筋縄ではいかないサウンドになる。ZEPPライブでそこがもっとも顕著だったのが、とてつもないサイケデリアが立ち込めていた「US」だった。そして、なるほどな、と思った。コヨーテバンドは鳴らすべき音のフォーカスをグッと絞ることで、深く、遠く、真っ直ぐに突き刺さるサウンドが生み出せるようになったんじゃないだろうか。「僕にできることは」のスカビートは、HKBの「インディビデュアリスト」のスカとはまるで違うし、2本の歪んだレスポールが音の壁をつくる「サムデイ」なんて、今まで聞いたことがない(そして正しい!)。
そんなわけで、コヨーテバンドはついに大化けしました。そのことこうして文章化できて満足...なんだけど、この事も書いておかなければ。
「警告どおり 計画どおり」のイントロを聞いた時は「ぎょえー!」と思ったけど、実はそれほどセンセーショナルなこともなく、うちらが置かれている日常のひとつなんですよ。'87年にリリースされた時は、日常生活の中のイシューじゃなかっただけに逆に騒ぎ立てることもできたけど、あの曲で歌われてることのすべてが現実化しちゃったわけ。だからことさら騒ぎ立てることもない。残念だけど。