思えばこのブログでも、2006年に『LOVE』が発売されたときにオリジナル・リマスターの重要性を説いてました。もっと遡れば『Yellow Submarine Songtrack』が出た1999年から、いよいよもってビートルズ・リマスタリングの重要性を認識したもんです。
それまでの僕のビートルズ遍歴と言えば、小学生のときに「開け!ポンキッキ」での「Please Please Me」のハーモニカがやたらと耳に残っていたという記憶を経て、中学一年生(26年前)のときに友達の家でブラックビニールのビートルズを聴き漁ったところから始まるわけです。そこから10年くらいはずっとカセットテープで聴いていたんだけど、1992年に16枚組の『ザ・ビートルズ CDボックス』なるものが出て、当時も確か4万円くらいしたんじゃなかったかな。一念発起で購入し、1987年にCD化された音源を隅から隅まで楽しみました。それまでテープで聴いていたんだから、その音のクオリティたるや素晴らしい!っと思っていたのも束の間、世の中では「CDでこんなに迫力あるサウンドができるの?」とか「うわ、アナログみたいな野太いサウンド」とかっていう、CDの限界に挑むような音源がどんどん出てきまして、思えば中学の時に聴いたビートルズって、ガツンガツンしたロックだったよなあ...CDのビートルズってちょっと大人しめのポップだなあ...なんて不満さえ感じるようになってきたわけです。
そして最近ですけど、Matrix-1と呼ばれる、いわゆるUK初回プレスのアナログ盤を最高のオーディオシステムで聴く機会がありまして、『Revolver』『Sgt. Pepper's』、ホワイトアルバム、あとシングルを数枚を"体験"したわけです。これらは初回プレスなので、当然MONO盤なわけですが、これがもーーーーう凄い!ビートルズって66年の段階でハードロックとパンクとプログレッシブなバンドだったとわ! 誰だ、ビートルズがイージーリスニングだって言うタワケは。
そんなわけで、かれこれ10年くらい切実に求めていたビートルズのリマスタリング盤ですが、まあ世紀の文化的大事業なだけに、その作業自体は多くの時間がかかることだろうって思ってました。そして蓋を開けたら、2009年9月9日というNo.9な日に出したかっただけなんかい!と思えるくらい、用意周到に来ましたね。リマスタリングの使用機材はたぶんこれから様々な資料が公表されると思うけど、現時点ではProTools HDとPrismSound ADA-8XRによる192kHz/24bitリマスタリングってことで、機材から察するにこの4〜5年で作業が行われたのかな。もちろんその以前から、当時のマスターテープの修復やらリマスタリングの前作業は行われていたろうけど。
2009年4月に、いよいよリリースされるという情報が世界発表されて、そこから5ヶ月、一睡もできなかっただけにI'm Only Sleeping状態ですが、今回はStereo盤に加えてMONO盤もボックス販売するということで、当然両方買いましたよ。MONO盤は初回限定生産のマニア向け。Stereo盤が今後のビートルズサウンドのリファレンスになるわけですが、僕の中では逆なんです。MONO盤で聴ける、あのグシャっと固まった音像の中にグルーヴも美メロもサイケも何もかも詰まっているのがビートルズ・サウンドであり、Stereo盤は楽器の定位や分離の良さから、フレーズ研究とかそういうのに向いていると思うわけです。かのジェフ・エメリック先生も、自身の著書「ザ・ビートルズサウンド─最後の真実」で「僕たちが真剣に作っていて、メンバーも立ち会っていたのはMONO盤で、Stereo盤はMONOの作業を終えてみんなが帰った後で数時間かけて作業したくらい、違うものだ」的な発言があるくらい、やはりMONOから立ちこめてくる「気」は全然凄いわけ。
でも多くの人たちが今後耳にするのは、2009 Stereo Remasterと言われるものなわけです。そういう役割を担うものだけに、現代にも通用するヌケの良いロックサウンドになっていると思います。当時としては楽器数が異様に多いレコードですが、今と比べれば全然かわいいもの。なので、楽器ひとつひとつ、トラックひとつひとつの音がきちんと再現されている。そしてバランスもドラム、ベースをきちんと前に出したロックサウンドを土台に、ボーカルは中位の前面にポンと置くことで、まるで目の前で歌っているかのような錯覚を感じる。今まで埋もれがちだったアコースティックギターのバッキングや、タンバリンなどのパーカッシブなフレーズも取りこぼすことないので、ビートルズサウンドの緻密さが際立ってくる。
例えば「Nowhere Man」の埋もれがちなジョンのギターとか聴くと、やっぱジョンのギターはアップストロークが決め手だなと感じるわけです。アップで裏泊を強調しグルーヴを出すことで、一見するとポップな曲なんだけど、深層心理の部分で凄いロックを感じる効果を出してくる。「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」はリンゴのドラムがむちゃかっこええ。誰だ、リンゴがドラマーとしては二流だなんてぬかすタワケは。さらに今まで聴こえなかった音が聴こえるようになるのもリマスタリングの醍醐味。「A Day In the Life」のラストのピアノ残響音も前のCDより長く聴こえるし、椅子の軋む音もしっかり聴こえる。「Happiness Is a Warmgun」って、すごい低いベースと同じラインのスキャットって入ってたっけ?
そんな感じなもんだから、数ヶ月はビートルズだけでいくらでも楽しめるわけです。こうしたことを総合的かつ多角的に検討した結果、普段使いのiPhoneには、「Please Please Me」〜「The Beatles(ホワイトアルバム)」まではMONO盤を。それ以降はStereo盤を。さらにMONO盤シングルを集めた『Mono Masters Vol.1,2』とStereo盤の『Past Masters Vol.1,2』をシンクしてコンプリートとします。自宅のApple TVにはMONO、Stereo全部に加え、『Help!』と『Rubber Soul』の1965 Stereo Mixも入れておきます。これらの音の違いは明確ですよ。試しに「Help!」というジョンの第一声を聴き比べましたが、やはり全然違う。いずれもジョンのちょっとしゃがれてフェイズのかかった「Help!」なんですが、Stereo盤はちょっと音響的なエフェクト感みたいなのがありました。MONOとStereo Mixは生音忠実。
さて、1987年CDをどうしたものか。しばらくの間はiTunesに残しておきますが、一通り違いを楽しんだところで今回のリマスターに乗り換えかなあ。