iPodやiTunesのデジタル音源は音が悪いと言われて早数年。店頭では某国内メーカーの売り子さんが「iPodってアップルですよ。コンピュータ屋が音の良いプレーヤーを作れるわけないじゃないですか」って客に説明していたんだとか。AACだって同じように言われてます。さすがにMP3のほうが良いって話はないにせよ、OggだとかWMAとの比較論は後を絶ちません。
比較論はまあ気にしないでOK。何が何より上だ下だなんて意味がない。そういう相対的な見方ではなく、絶対的な見方としてAACやiPodは音がよいか悪いか。それを知りたいわけです。もっと言えば、AAC 128KbpsとCDやLosslessの違いが分かるだけのサウンドシステムで、みんな聴いているのか? それを知りたいんです。
で、今回その機会に恵まれました。最高のシステムでAACとCDやLosslessと比較する機会です。詳しくはここでは控えますが、札幌在住のどうバカie氏。もう感謝感謝です。
試聴のためのオーディオ機材はこんな感じです。全体の構成額は凄い金額になりますが、音源のもつポテンシャルを完璧に引き出すための機材としては申し分なさすぎ。音の違いが明確になるシステムって、こういうものを指すわけです。うちもTriode社の真空管アンプ「TRV-35SE」とMonitor Audio社のスピーカーを使っているんですけど、イマイチわからんですよ。
◎スピーカー
YG Acoustics Anat Reference studio
◎アンプ
すみません、機種名までは未確認! リンのアンプをバイアンプ接続されていました。
◎DAコンバーター
CHORD DAC64
◎SACDプレーヤー
SONY SCD-1
◎Mac
MacBook + AirMac Express
この中では笑っちゃうくらい安い機材です
そして、今回は各エンコード、ビットレートの違いを明確にするために、聴く曲たった1曲に絞ることに。あれやこれやと候補が出たけど、決まったのは
Fire and Rain
James Taylor/Sweet Baby James
イントロから流れるギブソンJ-50の音色が再現できるかどうか、まずそこから聴いてみようということになったわけです。ジェームステイラーといえば、70'sシンガーソングライターの潮流を作った重要人物。それゆえに全体的に割とソフトな音楽なわけですが、さてどう聴こえるか。
◎SCD-1
では早速SACDプレーヤーで再生してみます。ちなみにCD自体はSACD仕様ではなく、通常のCD仕様です。
イントロが鳴った瞬間に「おおおお!?*`$'!!!!」。ギターのカッティングが凄まじい音を聴かせ、ブラシで叩いてるドラムなのに、そのアタック音がこれまた凄い。もう、体に突き刺さって痛いくらいに響く。ジェームステイラーのボーカルは線の細いそれまでのイメージを完全に覆し、とてもふくよか。曲の中盤、ドラムにエコーがかかって音が広がるんですけど、そうなってくると、ほとんどジョンボーナムが叩いているんじゃないかってくらいの音圧になってくる。そして、何よりビックリなのが、楽器毎の分離。左右、奥行きに加えて、なんと高さまで感じる音像。3次元を飛び越えて、3.5次元って感じですよ。1曲聴き終えた後は、もう放心状態。ハイエンドオーディオの魔力とは、こういうことだったのかと実感。
◎160Kbps
続いて、ランクを思いっきり下げてAAC 160Kbps。でも実は「お、悪くない」というのが最初の印象。ギターもドラムもボーカルも、曲としての情感はすべて表現できているんです。ただ、CDが生ライブだとすると、160Kbpsはオーディオ的な感じ。粒子感、広がり感は乏しい。特に低音でずっと鳴っているコントラバスの響きが、CDは地鳴りに近い感じだけど、やはりこれもオーディオ的。160Kbpsでこれなんだから、128Kbpsは確かに過不足ないけど、決して褒められたものじゃないんだろうなあ。
◎256Kbps
続いて256Kbps。圧縮音源としては贅沢な部類(iTunes価格で30セントの贅沢)に入るんでしょう。さて鳴らしてみますと、160Kbpsに比べて明らかに良い。音像空間はPCMとほぼ同等に再現。アタック感は少し弱めだけど全体がトリートメントされ、より音楽的な印象。確かに印象としてはアタック感の強いCDのほうが記憶に残るでしょうけど、何度聴いても聴き疲れしない分だけCDよりも好きですね。
◎Losless : 256Kbpsとほぼ同じ感じ。あえて違いを意識すれば、透明な薄皮を一枚剥がしたような感覚。ちなみにMac本体のCD/DVDドライブ(部品価格は数千円)で再生してもLoslessとまったく変わらない音でした。
ここで一度、MacでCDをAIFF形式にして取り込み、HDDから再生してみると……。これが本当に驚いたことに、SACDプレーヤーとほぼ同じ生音さ加減で再生されました。いやあ、これはビックリですな。理論的に考えると、確かにCDのデジタルデータをそのままの形でハードディスクに落とし、そのデジタルデータをそのままの形で無線で飛ばし、光端子からそのままの形でDACに突っ込んでいるわけで、こういう言い方があるかどうか知らないけど、100%ピュアデジタルなわけです。
次に、DAコンバーターの設定(繋ぎ方?)を変えて同じように試してみたところ、なんと160Kbpsでも驚くくらいクリアな音に。256Kbps、Loselessもコントラバスの低音の響きが地鳴りのように再現。ここまでくると音の善し悪しじゃなく、好みの世界ですね。さらにはアーティストやエンジニアがどういう意図で録音していたんだろう…、ライブっぽく撮りたかったのか、もっとアンサンブルを重視したかったのか…なんて考えてしまうくらいです。繰り返しになるけど、僕はあえてCDの音よりも256Kbps(容量が許せばLossless)を選ぶと思います。
結論としては、AAC 128Kbpsはちょっと心許ないのかもしれませんが、まあiPod向きの音。普通のオーディオだと160Kbps以上であれば十分。256Kbpsは、ピュアオーディオ的に考えても、かなりのポテンシャルをもったものだと思います。なお、この実験は形を変えて、あれやこれやと続けていきますので乞うご期待。