こうして改めて、'80s作品を聴き込んでみると、やっぱり何だかんだ言っても『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』が好きだなあ。書き始めると長くなるけど、ナポレオンフィッシュがいちばん、詩と音楽が共に先鋭的であり、かつバラエティに富んでいる。サウンドはパっと聴く程度だとオーソドックスなブリティッシュロック風って感じだけど、聴き込むと相当複雑で斬新だということが分かる。詩についてはそれまで以上に散文的なんだけど、決して難解ってわけではない。「ブルーの見解」とか難しく感じるかもしれないが、オレと奴と君の「関係」に視点を合わせると、なるほどそりゃあ「ブルーの見解」だな、って思える。たしかに文学的ではあるが、それがビートに乗ることで味わえる楽しさがここにはある。
ちなみに「約束の橋」の「橋」というのは、世代や人種、宗教といったものを分断する川を渡るための虹の橋、というのが発売当初からの持論です。なおかつ、歌の主人公は橋を渡っていない。橋のたもとで分断する川を見つめている。ここがなんとも佐野さんじゃあないですか! 清志郎は同時期に「WATATTA」というまったく同じテーマ(持論)の曲を作っていて、そこでは「オレは川を渡った」と歌っています。なんとも二人のキャラクターの差がはっきり出ているじゃあないですか!
あと、自分の中でのダークホースなのが『Heart Beat』。もしかしたら『SOMEDAY』よりも好きかもしれない。これも自分しか分からない言い方かもしれないけど、ビートルズの『Sgt.Pepper』は名盤なんだけど、個人的にはその前の『Revolver』のほうが好きだ、というのに非常に近い感覚。さらに加えるなら、『Heart Beat』は『Revolver』よりさらに遡って『Rubber Soul』っぽい。『SOMEDAY』は『Revolver』も内包している感じがするしね。
ひさびさに「HEARTLAND」を聴いて、こりゃ凄いって思ったのが、そのサウンド。この当時のライブってことだと、北海道の旭川にある小さな会館で「Cafe Bohemia Meeting」を見ているが(実はこれにはクソくだらないエピソードがある。それはまたいずれ)、その時とバンドサウンドがまったく違う。ようするにちゃんとスタジアムバンドの音になっているのだ。発売当時もレコードを買って聴きまくっていたけど、その時は「おお、音が広がっているなあ。野球場だからなあ」というくらいの印象だった。でもその後、東京ドームでU2やらストーンズやらのライブを経験したことで、スタジアムバンドの音というのは、決して場所とかPAのおかげで鳴るものじゃないってことに気付いた。だから、ハートランドというバンドの懐の広さは当時の日本のバンドとしては別格だったんじゃないかな。その一方、HOBO KING BANDがスタジアムな音を出せるか? というと、あまりイメージが沸かないのも事実。いや、テクニック的には全然問題ないんだろうけど、スタジアムはHOBO KINGサウンドを楽しむ場ではないと思うわけ。
あとオススメは『Cafe Bohemia』かな。勝手な言い方をすると、これが一番“佐野元春 '80sサウンド”を具現化しているアルバムだと思う。もちろん初期三部作にそれを感じる人もいるかもしれないけど、これらは80年代に鳴らした'60s〜'70sのGood old sound。『VISITORS』は時代考証などを無視した突然変異。で、『Cafe Bohemia』が初めて、佐野さんが同時代サウンドにがっつりと向き合った作品なんだと思う。ただ、同時代といってもそこは佐野さん。フィリーソウルだったりネオアコースティックだったりと、日本じゃなくUKに視点が向いていたわけですね。「Young BloodsがShout to the top」というのも、結局はそういう理由。でもさあ、そんなに似てるかね? 明らかに似ているのは全体のリズムと16ビートを刻むハイハット、バッキングのピアノなんかが似ているわけで、それはソウルミュージックの伝統的なフォーマットやん。メロディやら歌詞をパクっているのとは明らかに違うわけですよ。「IndividualistsがInternationalists」っていうのは、たしかにワハハ…って気はしますけどね。まあ、無邪気だなあなんて思うわけです。