上巻の冒頭は、主要人物の過去やら事件やらが人物毎に語られていて、なかなか本題に入らない。読み飛ばしてしまおうかとも思ったが、作家である福井 晴敏のストーリーテリングの上手さのためか、結構引き込まれていく。ようやく本題に入ったかと思うと、事件は海の上ではなく、陸の上で起こる。これがストーリーにどう絡むんだろう? そもそも「亡国のイージス(亡国の盾)」ってどういう意味だ? と読み進めて行くと、上巻の後半で、断片的に語られてたすべてのエピソードが見事に一体化し、そのときには日本の国防という観点において、決定的な矛盾を突きつけられる。この展開の妙はお見事!
イージス艦が突然日本からの独立を宣告し、政府に対して不可能なことを要求するというのは「沈黙の艦隊」と同じプロットだけど、「亡国のイージス」のほうが今の自衛隊が抱えているパラドクスをリアルに描いている。起こってしまった事態を収拾させるのが、結局は主役キャラのスーパーマン的な活躍によるものというのは、まあ仕方がないとして、冒頭に描かれた登場人物達のトラウマが燃え上がり、灰になり、救いのある形で浄化していくのは、読んでいて気持ちよかった。
ちなみに映画は、単なる艦隊ものになっているそうだけど、小説のエッセンスをすべて映像化すると映画という体裁にはならないだろうから、これは仕方がないかな。モーニングでは漫画版もやっていて、こちらは割と原作どおりだけど、小説で得られるカタルシスがほとんどないので、やっぱ小説の完成度が高いってことなんだろう。
少し落ち着いたら、同じ福井 晴敏による「終戦のローレライ」も読んでみたい。ちなみに福井 晴敏は∀ガンダムの新解釈本「月に繭地には果実」も書いているが、こっちは前に読んで途中で挫折したんだよなあ。今だったら読めるかな