僕は昔から、あまりソニー製品をもっていない。思い出せるところとしては、VHSデッキ(これはソニーがVHSに転向した当初に買ったもの)、ポータブルのMDレコーダ、古いVAIOデスクトップ、DVカメラ…こんなものだろうか。自分でこういった家電製品を買い始めたのが'90年なので、いわゆる「旧デジタル家電」的なものが多い。
それ以前の'80年代、僕がまだ10代だったころ、ソニー製品というのは何かもの凄いものという印象があった。とても手にできない、というほど高価ではないが、他社製に比べると、質実剛健、気配りの効いたデザイン。モノは良いけどちょっと高め(というか、他社が安くしてきているわけだが)。たとえば1984年、中学の修学旅行の際にポータブルカセットプレーヤーが欲しくて、いろんなカタログをかき集めてきたのだが、当然ながら絶対的な基準はウォークマンなわけ。そのときの最新ウォークマンに搭載されている機能を暗記して、じゃあシャープは? ケンウッドは? という見方をしていた。結局、親との交渉の際に金額面でシャープに落ち着いたような記憶がある(親父はわりとシャープ派だったし)。
高校になると、CDが一般的になってきた。とはいっても高価なミニコンポにセットされるような形で普及していたので、これがなかなか手が出ない。そしてその後にはDATが出てきた。今も昔も個人が手を出すモノではないが、CDよりも音が良く、レコーディングの現場でマスター音源をハンドリングできるだけの性能を持った、カセットよりも小さなテープというのは、高校生の理由亡き物欲を相当掻き立ててくれた。そんなわけで、心はソニー派、実際に買うのはシャープ製というのが、うちのパターン。あ、そうそう。うちは昔からβ派(でもデッキは東芝だっけかな)だったので、ソニーの「βはなくなるの?」一面広告は、やるせなかったなあ。
さて、時代は200X年。今、ソニー製品でほしいものがあるか? と聞かれると、これがもう全然ありません。プラズマもDVDレコも買うなら他社製、PCとミュージックデバイスはApple、PDAはその存在を記憶から喪失させ、携帯電話にいたってはBluetoothとOperaを載せてくれればどこでもいいや。2ちゃん族は、ソニーは魂を売り、サムソンから肉体を買っているとか、アナキンスカイウォーカー@Epi.3的な煽りをしていて楽しいが、自分の中ではそれがフォースの暗黒面に繋がることはない。ネットワークウォークマンについては、ようやくマーケットを動かせるだけの製品を出してきたが、それでもiTunes + iPodを完膚なきまでに叩きのめす野心に溢れた製品とは言えないな。っつーか、それをやってソニーだろ。本気の本気を出せばできるでしょ。iPodの二番煎じを開きなおったようなマーケティングはやめようよ。
この数日、ソニーはいくつかの新製品を公表してきた。ひとつは世間でも話題になっているPLAYSTATION 3。ここ数年、ずーっと話題を引っ張ってきただけに、ようやくキターーーーー!って印象だろうし、Xbox 360とのガチンコ勝負も面白い。
この陰に隠れてしまった観もあるが、もうひとつの新製品が、10万円後半代という普及型DVカメラと同じ価格帯の家庭用HDVカムである。正直、ひさびさにワクワクさせてくれるソニー製品の登場だと見ている。そう、かつてDATデッキを登場させたときに似た感覚。テクノロジーという意味ではPLAYSTATION 3のほうが圧倒的に凄いのだが、HDVカムには、それまでプロ中のプロ(たとえばルーカスフィルムとか)しか手にできなかった映像品質を、普通のお父さんが手にできるという下克上的ロマンがある。僕はこういう話が大好き。かつて、MacとPageMaker、LaserWriterが印刷製版という特権的な作業を、あらゆる家庭や職場に解放したこと──つまりDTPの誕生──は、未だに僕のMac原体験のなかで強烈な印象として根付いている。
ちなみにこのHDVカム「HDR-HC1」の製品発表会では、業務用のでかいHDVカムがパカっと割れて、中からHDR-HC1がせり上がってきたんだとか。おぉ、やるー。まあ、HDR-HC1を速攻で買うかっつーとそうでもないんだが、近い将来、必ずや買うだろう。その前にパイオニアのプラズマと、東芝のDVDレコを買わないと。あ、心情的にはBlu-Ray派です。