現実の景色にメッセージを忍ばせる、Topo Cardの「ARカード」で目指すこと
ARカードで、いったい何ができるか?
百聞は一見に如かず。まずはこのプロモーション動画をどうぞ。
ARカードの挙動は以下のようになる。
- カードの中に、普通には表示できない「秘密のメッセージ」を忍ばせることができる
- 秘密のメッセージを表示する方法は、その場所に行き、カードにある目印(写真)を見つけたらARカメラをかざす
- 目印と同じ景観だと認識されると、画面の中にARサイネージが表示される
- サイネージをタップすると、カード画面に戻って秘密のメッセージが初めて表示される
このカードは誰でも簡単に作れるので、その場に来た人たちだけに情報を伝えることが可能になる。ちょっとしたゲーム感覚もあるし、エンゲージメントの高い特別なコンテンツを配信することもできるので、応用例は様々だろう。
アップルからのレクチャーで開眼したARの新発想
前回のブログ記事でも書いたように、未だに実験の域を出ていないTopo CardのAR(拡張現実)機能をどう発展させていくか、今ひとつ見通しが立たない日々が続いていた。そんな中、アップル・ジャパンから個別に声が掛かり、ARKitについてレクチャーを受ける機会があった。
3月末にリリースされたがiOS 11.3の目玉のひとつであるARKit 1.5。垂直の平面検知や画像認識に対応し、カメラ解像度もHDクオリティになるなど、さすがアップル肝いりの技術だけあって、他のiOSフレームワークに比べても成長ペースが早い。
垂直の平面検知と画像認識は、たとえば美術館に展示された絵画にiPhoneを向けると、その絵画の付加情報が画面上に表示されるものをイメージすると分かりやすい。そう、この発想は以前ならiBeacon(Bluetooth LE)が中核技術となっていたが、実生活のなかでビーコンに出くわす機会がほとんどなく(Apple Store銀座の入り口くらい?)、装置のコストがかかるなどの煩雑さが先に立ち、それほど普及してこなかった。
Topo Cardも開発初期の頃からiBeaconを使う計画があった。数十メートルの誤差が生じるGPSとは別に、その場所にいることのエビデンスになる方法としてビーコンの利用を考えていて、その場所にいることが確認できたら、秘密のコンテンツが表示されるというアイデアだった。
コードはすべて実装してあったが、ビーコンが普及する兆しがないので使われず仕舞いだった。いま再び、ARカメラでその場所にある特徴的な景観(看板やポスター、標識など)を認識する方向に舵を切れば、積年のアイデアが形になるかもしれない。なおかつ、セカイカメラの二番煎じ的だった当初の使い方から、思い切りジャンプアップが図れれば一石二鳥だ。開発の基本路線は「ユーザーが手軽に、場所にまつわるARコンテンツを作れる」ツールをTopo Cardで提供するということに決まった。
技術的な解よりも導き出すのが難しい「ユーザー体験」
技術レクチャーに招いてくれたアップルに感謝しつつ、肝心なのは、ARカメラで現実空間に重ねるCGはどうあるべきか? そのCGが表示された先にはどういうユーザー体験はあるべきか? この問いの答えが思いつくまで、結構な時間がかかった。
最初は、ARカメラの中にもう一枚の「秘密のカード」が浮かび上がるというのをイメージしていたが、試してみるとどうもしっくりこない。その場所まで出向き、苦労して目印を探し当て、やっとの思いでARカメラをかざして出てきたのが素っ気ないポストカードだった…とは、あぁなんて人生の無駄使い。
だからと言って、「READY PLAYER ONE」みたいにサイバーちっくなデジタル情報で埋め尽くされるのは、映画のように手で持つことなく情報が宙に浮いているならいいけど、iPhoneを目線と同じ高さで固定するのは大変だし、プルプル震える手の動きに応じてカメラ内の画像もズレるので、使い勝手が極端に悪くなる。
そういうことを色々と試してみて、折衷案として出した答えが「ARサイネージ」という、なんとも広告代理店的なアイデアだった。見た目に派手で、SNSとかで見かけても目を惹くサイネージをデザインして、それがカードに秘密のメッセージを流し込むというイメージにした。
現実の街の上にデジタルのレイヤーを重ねる発想
AR技術を自分なりに作り込んでいく中で、常に自分に律していたルールが3つある。
- AR技術の品評会で終わらせず、その先にあるユーザー体験をセットすること。
- ユーザーにとって単なる受動的なコンテンツではなく、自由な発想でコンテンツが作れるクリエイティブ性を確保すること。
- 建物の中に籠るではなく、外に出て体験できるものにすること。
1.は、街にカードが浮かび上がるARカメラの段階から一定の成功をしていると思う。2.については、ぜひ子供達と一緒に実践していきたい。Topo Cardの究極の目標は、デジタル・ソフトウェアによって「都市設計」に関与するということだが、現実の街の上にデジタルのレイヤーを一枚重ねて、その上で子供たちが大人に邪魔されることなく自由に街づくりできる、そんな取り組みを徐々に進めている。
そして3.については、Twitterにとても興味深いツイートがあったので引用する。
ナイアンティックにいる同期曰く。
「ARは人を外に連れ出せるけど、VRは遮断する。人間の好奇心は意識しなければずるずると手近なところで解消できてもしまう。だからナイアンティックはテクノロジーとしてはARにこだわる。俺は元廃ゲーマーだったから痛いほど分かる。」
筋が通っておられる。
— 菅野圭介 / Keisuke Kanno (@keisukekanno)
これはまさにその通り。ちなみにARカメラの開発をしているときに、ずーっと頭の中で流れていたのは、ビートルズの「Dear Prudence」でした。 そして、もう一つ別のツイートを。子供達にTopo Cardを使ってもらえるか?というリサーチを行った際に出た意見が、このツイートと相通ずるものがあった。
子供のころ、秘密基地をつくって判ったのが、仲間とつくると〈閉じた場〉になり、自身のために独りでつくると〈世界に開いた場〉になること。だから、一人遊びをしている子供を〈閉じている〉と誤解してはいけない。自身のために制作している作家もまた、これと同様である。
— 中島 智 (@nakashima001)
ARカードの活用例「街のトリビアを探せ」
ゴールデンウィークの前半、なにかと都内を行ったり来たりする機会があったので、東京駅丸の内駅舎、早稲田大学、下北沢、下高井戸、日比谷ミッドタウンの各所に「その場所のトリビア」が隠されたARカードを仕込んできた。カードにある写真の風景にARカメラを当てると、動画など秘密のメッセージが見られるもので、Topo Card v.1.7.5をダウンロードすれば、誰でもすぐに最先端のAR技術を体験することができる。
情報の発信側にしてみれば、立看板にQRコードやARマーカーを印刷する手間もいらず、ランディングページとなるWebを新たに作ることもなく、いつでもテキスト・動画・写真を更新できるのだから、地域や施設情報の発信コストをぐんと下げられる。
ここまでは大いに自負できるものになったと思うが、一番欠けているのが、こうした良い体験をみんなに広める術がないこと。2018年後半はTopo Cardを認知してもらう努力を本気で続けていかなければっ。